誤嚥を防ぐポジショニングと食事ケアの技術伝承 ─ ポジショニングで食べる喜びを伝えるPOTTプログラム ─

看護とポジショニング

人は歩く、移動する、食事するなどの生活行動において、自然に姿勢を整えています(ポジション)。自分で姿勢が取れなくなった人々に対し、看護師(介護士や家族)が日常業務として提供しているのがポジショニングです。

これまでのポジショニング技術は、褥瘡予防として看護分野では発展してきた経緯があります。食事時のポジショニングは、複雑な全身の運動を統合します。視覚情報から摂食行動へ、姿勢を保持して食事を口に運ぶ、摂食嚥下機能の円滑な動きを引き出し食べることができます。誤嚥予防は、そのメカニズムの理解が必要です。摂食嚥下障害のある人が増加する現代は、看護の新たな技術とその教育が求められています。

例えば、「食事中に体がずれる」「むせる」「食事時間が長い」「食べる量が減ってきた」「常に介助が必要」などは、ポジショニングの不具合が起こっている可能性があります。その結果、低栄養による体力減退、免疫力低下、誤嚥性肺炎といった悪循環が起こります。窒息も不良姿勢や食べ方が大きく影響します。

食生活援助は看護の重要な役割ですが、摂食嚥下障害のある人の食事ケアは教育も実践もまだ発展途上にあるといえます。食べる喜びを共有することは、判断力や技術力が基本となります。ひとりひとりの小さな看護の積み重ねは、“看護が見える形”として社会と繋がることでしょう。

看護理論家の提言

F. ナイチンゲールは、看護覚え書の中では、「食事」「食物の選択」以外にも各単元の中に食事に関してたくさんのことを述べています。現代社会に通じることしてはっとさせられたのは、「「毎年何千人という患者が、食物が豊富にありながら、いわば餓死させられている。それは患者が食物を食べられるようにする方法についての注意の向け方が不足しているからである」と。これらの記述は、摂食嚥下障害者の増加することを見通しているようでもあります。食事時の姿勢を整えるポジショニングは、まさに食べられる方法のひとつであり、看護・介護技術であると考えています。

またV.ヘンダーソンは、看護基礎教育の中で誰もが学習する「看護の基本となるもの」の中の“患者の飲食を助ける”の単元で、「看護教育課程には栄養についての学習以上に重要な科目はない」と言い切っています。「医師や栄養士を活用できる病院の中でさえ、四六時中患者と共にいて、患者の食べたり飲んだり最もよく力づけることができるのは看護師である。患者の食物の好みを知り、患者の苦適切な食餌摂取を観察、報告する機会を誰よりも持っているのは看護師である」と。

現代の病院では、食事介助を要する患者の増加により、四六時中観察のみならず、好みや食習慣を知らないまま、また基本的な食事介助を日々実践している看護師が残念ながら増加している現状が垣間見えます。

看護教育の現状

摂食嚥下障害のある人々の増加により、食事介助技術の転換が求められています。新人看護師の1年目の技術到達状況では、「食事介助」は50%でした。

食事介助をしていないのではなく、できない技術になっていました。

その要因は様々ですが、看護職が食事介助はできて当たり前の時代ではなくなっておりました。なぜでしょう・・・。

そして、2014年には、新人看護職員の研修ガイドラインが改訂となりました。食嚥下障害のある患者の「食事介助」は、1年目でできるレベルに引き上げられました。食事介助は、単に食事を口に運ぶのではなく、アセスメントから食具の選択やポジショニング、介助方法まで看護技術が必要です。

摂食嚥下障害患者の食事介助は、“いのち”と直接向き合います。窒息や誤嚥のリスク管理が必須です。高度な食事介助の指導者教育は、今の現状ではなかなか追いついていかないことが垣間見えます。私達は、摂食嚥下障害看護認定看護師の専門性をフルに発揮してもらい、この課題にチャレンジしたいと考えています。

新人看護職員研修ガイドライン

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